電話対応が親切な業者を利用しようブログ:180314
当時の僕は、
とある都市の大きな企業に勤め、マンションで一人暮らし。
ごく稀にお母さんが田舎から僕のもとを訪ねることがあった。
おいしいものを食べに行こうという僕に、
お母さんは親子水入らずで、のんびり部屋で過ごしたいと
わざわざ重たい野菜を抱えてやってくる…
ある日、仕事から帰った僕は、
オートロックのロビーから部屋いるお母さんに
「ただいま。あけてー」
インターホン越しに呼びかけた。
ところが、お母さんからの返事はなく、
マンション中に非常ベルの音が響き渡った。
お母さんが部屋の開錠ボタンと非常ボタンを押し間違えたのだ。
ロビーで頭を抱える僕のもとへ、
青ざめたお母さんがやってきた。
僕は恥ずかしさのあまりお母さんをひどく責めた。
騒動の後、部屋には
お母さんが作った夕方飯のにおいが立ち込めていた。
田舎から持ってきた野菜の和え物、
帰るタイミングにあわせて焼かれたであろう焼き魚、
細かく刻まれた葱の浮かんだ味噌汁に、揃えられた二人分の箸…
ショックの余り俯いて手をつけないお母さんをよそに、
気まずい中、冷めた料理を僕は黙って食べた。
あれから僕も二児のお母さんになり、
7〜8年たった今になって
あの出来事を頻繁に思い出すようになった。
恥ずかしいのはお母さんではなく、
つまらない見栄で
かけがえの無い時間を台無しにした僕だった。
今さらと思いつつもお母さんに言った。
「お母さん、あの時ごめんね」
意に反し、お母さんはその時の恐怖を、
近くにいた兄と笑い話のネタにしてケラケラ笑っていた。
僕が責めたことなど忘れているようにみえた。
それでも、お母さんを思う時、
僕は真っ先にあの出来事を思い出す。
そして
「大したことないよ」
そう言えなかった自分を悔やみ続けると思う。
あの日の冷めてしまったお母さんの手料理の味とともに…